自分史制作スタジオ
「取材メモ」と「事前アンケート」が、完成する本の何に効くのか——それが分かれば、集め方も書き方も変わります。本書は、素材が効く場所と効かない場所を正直に地図にし、そのうえでどう書けばよい本になるかまでをまとめます。
まず結論を先にお伝えし、そのあとで理由と書き方を説明します。
まず要点からお伝えします。
取材メモもアンケートも、AIに渡す前に要約・圧縮されません。原文がまるごと全文、生成の主要な工程すべてに渡ります。執筆では章を書くたびに毎回、全文が添えられます。「長すぎて削られる」「要点だけ抜かれる」ことはありません。
だから「書いたのに使われない」ことはありません。逆に、書かなかったことはAIには一切見えません。メモにもアンケートにも書かれていない出来事・人物・気持ちは「存在しないこと」と同じです。本の事実の正確さ・分量・人物像の質は、素材の質と量でほぼ決まります。
「生成」を押すと、AIは一気に書かず、工程を順番に進めます。ここでは「取材メモとアンケートが、どの工程まで、どんな形で届くのか」を追います。
素材の原文が届く「4つの主要工程」と、原文は届かない「仕上げ工程」に分かれます。まず、原文がまるごと届く4工程です。
メモに出てくる時代・土地・出来事の背景を調べ、情景描写のための「リサーチノート」を作ります。 入る素材:取材メモ全文 + アンケート全文
起きた順の年表と人物関係を抽出します。担当者が校閲でき、直した版が以降の全工程で「正しい事実」として最優先されます(第8章)。 入る素材:取材メモ全文 + アンケート全文
起承転結の章立て・各章の担当場面・作品を通底するメタファーを決めます。 入る素材:取材メモ全文 + アンケート全文 + リサーチノート + 年表
本文を1章ずつ書き、章ごとに要点(既出台帳)を積み上げて次章へ渡します。 毎章添える素材:取材メモ全文 + アンケート全文 + リサーチノート + 年表 +(あれば)ボイスシート
アンケートにはさらに「主人公の言動・内面・会話と矛盾させず、羅列ではなく場面に自然に溶かし込め」と指示が付きます。つまりアンケートは「そのまま並べる」のではなく、人物の芯として物語に溶け込ませる扱いです。
取材メモは、本の「事実」と「分量」を決める背骨です。効き方は2つあります。
メモに書かれた出来事・年月・場所・人物・場面のディテールが、そのまま本文の事実になります。4工程すべてで全文が読まれ、執筆では「事実の典拠」と名指しされます。逆に、メモに無い出来事はAIには見えず、本文にも出てきません(AIは原稿に無い体験を創作しません)。
本の長さは、取材メモの厚さがそのまま決めます。長さ設定を「自動」にすると、本文の目標総文字数は次の式で決まります。
メモが厚いほど本は長く、薄ければ短くなります。これは良い本を作るための安全装置です。
本文の字数 ÷ 取材メモの字数を「膨張率」と呼びます。膨張率が大きい(メモが薄いのに長くしようとする)と、AIは足りない分を同じ話の言い換えや情景の描き直しで埋めようとします。これが「章をまたいだ繰り返し(重複)」の主な原因です。
約22,878字の取材メモの実案件での実測です。
| 設定 | 膨張率(本文字数 ÷ メモ字数) | 章をまたいだ重複 |
|---|---|---|
| 短めの設定 | 0.97倍 | 4件 |
| 長めの設定 | 1.92倍 | 17件 |
同じメモでも、長い設定にしただけで重複が4件から17件に増えました。文章の質ではなく、長さを素材に対して張り過ぎただけでこうなります。
| 設定 | おおよその規模 |
|---|---|
| short | 7章 × 約4,000字 |
| medium | 12章 × 約5,000字 |
| long | 17章 × 約6,500字 |
| full | 24章 × 約7,500字 |
なお、取材メモは1件あたり500,000字まで書けます(複数件も可)。分量の上限を気にして削る必要は、ふつうの案件ではまずありません。
アンケートは、本の「人物像」を決める芯です。取材メモが「何があったか」なら、アンケートは「どんな人か」を担います。
アンケートも原文がまるごと全文、4工程に渡ります。執筆では「人物の芯として尊重する」と名指しされ、「言動・内面・会話と矛盾させず、場面に自然に溶かし込め」と指示されます。書かれた価値観・座右の銘・口ぐせ・伝えたい思いが全章の内面描写や会話に溶け込み、人物の一貫性を支えます。テーマ提案の材料にもなります。
アンケートは任意なので、書かなくても生成は動きます。ただしその場合「人物の芯」の情報がゼロになり、内面描写が弱くなります。
次の7問です。それぞれ1項目あたり20,000字まで書けます。
| 設問 | 内容 |
|---|---|
| 生年・出身地 | 例:1950年、静岡県焼津市 |
| 家族構成・育った環境 | 例:漁師の家の長男として育った |
| 職業・経歴の概略 | これまでの仕事・歩み |
| 人生の転機・忘れられない出来事 | いくつでも |
| 大切にしてきた価値観・座右の銘 | 信条や口ぐせなど |
| 影響を受けた人物 | 恩師・家族・友人など |
| 未来や読者へ伝えたいこと | 次世代に残したい思い |
効かない場所も正直に書きます。ここは素材にいくら書いても変わらないので、無駄な力を入れずに済みます。
タイトル・副題・販売ページ用のメタデータには、素材の原文は直接入りません。書き上がった本文の冒頭と、作品を通底するメタファーから作られます。ですから素材に「タイトルは○○にして」と書いても、そのままにはなりません。
タイトルを指定したいときは、素材ではなく「作品設定」で入力してください。タイトル・副題は空欄のときだけAIが自動命名し、入力すればその値が使われます。
文体(雰囲気・語り口)と視点は、作品設定の文体プリセットで決まり、素材の中身では変わりません。アンケートに「もっと硬い感じで」と書いても変わりません。変えたいときは、作品設定のプリセットを選び直してください。
本ができた後の「選択リライト」や、依頼主から届いた修正希望の反映では、取材メモ・アンケートの原文は渡りません(同行するのは年表・ボイスシートだけ)。そのため、事実の間違いを直したいときは、素材より先に「年表・人物相関」を直すのが正道です(第8章)。
取材メモとアンケートは役割がはっきり分かれ、両方そろうと事実と人物像の両輪がかみ合います。
| 取材メモ | アンケート | |
|---|---|---|
| ひとことで | 何があったか | どんな人か |
| 中身 | 出来事・年月・場所・人物・場面のディテール | 価値観・座右の銘・口ぐせ・伝えたい思い |
| 決めるもの | 本の事実と分量 | 全章の内面描写・会話、人物の一貫性、テーマ提案の材料 |
| 必須か | 必須(1件もないと生成できない) | 任意(無いと「人物の芯」がゼロ。生成自体は動く) |
次の3つは両方に書いておくと、二重に固定されて取り違えが減ります。
ここからは実践編です。素材が効くしくみ(第2〜6章)を踏まえ、具体的にどう書けばよい本になるかをまとめます。
本文を書くAIは、「その後・当時」といった相対的な時間、順不同の語り、「彼・あの人」といった代名詞、余談と本筋の混在に弱い性質があります。事実の骨組みを先頭で固定すると、時系列や人物関係のミスが減ります。取材メモは下の登録欄に貼り付けて登録します。
起きた順に、絶対年(西暦)+年齢で並べます。年が不明なら「(○歳ごろ)」で構いません。各章でこの年表が「正解」として参照されます。
登場する人を1人につき1回、呼び名を固定して、主人公との関係と役割を書きます。似た名前の人や、面識のない「引用だけの人」を明記しておくと混線しません。
「その3年後」→「1973年(23歳)」、「彼」「あの人」→「杉山さん」。同じ人を姓・名・あだ名で呼び分けず、1つに決めます。AIは代名詞や相対時間の指す先を推測でつなぐため、そこがズレの発生源になります。
本筋でない脱線は 【余談】、確証のない事実は (要確認)、事実でなく気持ちは「〜と思う」と書き分けます。AIは「原稿に無い体験は創作しない/(要確認)は注記する」方針で動くので、この印がそのまま安全弁になります。
このシステムは演出のため物語を起承転結へ大胆に再構成します。前後を入れ替えられたくない出来事には (この順序は固定) と注記すると、時系列崩れを防げます。
先頭の「年表」「登場人物」を埋め、あとは語りをそのまま貼り付けるだけでも効果があります。# の見出しや箇条書きの形は残したままで構いません。
アンケートは「人物の芯」です。次のコツで書くと、内面描写と会話によく効きます。下の入力欄に、本人の言葉で記入します。
| 設問 | 書き方のコツ |
|---|---|
| 生年・出身地 | 西暦と市町村まで正確に。 |
| 家族構成・育った環境 | 続柄・人数・家業・家庭の空気まで。 |
| 職業・経歴の概略 | 節目の年を添えて。 |
| 人生の転機・忘れられない出来事 | 取材メモと同じ出来事を書いてよい(むしろ望ましい=二重固定になる)。 |
| 大切にしてきた価値観・座右の銘 | 口ぐせ・座右の銘は「かぎかっこ」で原文ママに。そのまま本文の内面・会話に活きる。 |
| 影響を受けた人物 | 名前+関係+何を受けたか、をセットで。 |
| 未来や読者へ伝えたいこと | 終章やあとがき的な章の核になりやすいので、具体的に。 |
良い素材を書く工夫に加えて、システム側にも精度を底上げするしくみがあります。素材の効きを最大化する道具です。
AIが取材メモから自動抽出した年表を、担当者が画面で直せます。直した版が全工程の「正解」に。事実の間違いは、本文を1か所ずつ直すより、大もとの年表を直すほうが確実です。再取材で取材メモを追加したときも、再生成の前にまずここで「再抽出」を(第10章)。
取材メモを読んだAIが「場面として描くには情報が足りない箇所」を見つけ、追加取材で聞くべき質問リストを作ります。回答は取材メモに追記すれば本編に反映されます(自動反映ではなく、追加取材の道しるべ)。
取材メモの分量や偏りを診断し、適切な長さ設定を判断する材料をくれます(本編には自動反映されません)。長さに迷ったらまず。
素材から、人物ごとの話し方(一人称・語尾・方言・口癖)を抽出します。担当者が確認・保存すると、執筆と磨き上げで「会話の口調の正解」として厳守されます。しゃべり方をブレさせたくないときに効きます。
「アンケートと取材メモさえ入れれば、深掘り質問・素材カルテ・ボイスシート・テーマ提案・事前確認などの生成前ツールを使わなくても、それなりの品質の小説になりますか?」
生成に本当に必要なものは、本編の生成が自動で作ります。生成前ツールは「使わないと動かない部品」ではありません。
ツールを省くほど、素材の良し悪しがそのまま本の質になります。メモが薄い・時系列が曖昧・代名詞だらけだと、ツールを全部使っても限界があります。逆にメモが良ければ、ツールなしでも十分成立します(コツは第7章)。
薄いメモに固定の長い設定を掛けると、水増しの重複が増えます(第3章)。ツールを使わないなら、長さの判断もシステムに任せるのが安全です。素材カルテはこの長さ判断を助ける道具なので、「自動」にすればその役割の大半を代替できます。
| 省くツール | 起きうること |
|---|---|
| 年表・人物相関の校閲 | 自動抽出が年月・人物関係を読み違えると、その誤りが「確定した事実」として全章に増幅されます。ここが唯一の実質的なリスクです。 |
| ボイスシート | 会話の口調(方言・語尾・一人称)が、章をまたいでブレる可能性があります。話者が少ない案件なら、ほぼ問題ありません。 |
| 深掘り質問・素材カルテ | 素材不足に、生成後まで気づけません(=再生成1冊分の手戻り)。 |
| テーマ提案・章構成の事前確認 | 自動判断に任せることになりますが、品質が壊れる類のものではありません。 |
運用の目安は、初回はアンケート+取材メモ+長さ「自動」の最小構成で品質を見る → 事実誤りや口調のブレが出た案件だけ、年表・人物相関の校閲やボイスシートを足す。まず最小構成で1冊作り、必要なところにだけ手をかける——これがいちばん費用対効果の高いやり方です。
追加取材で新しい取材メモを足して「再生成」を押すと何が起きるか。その動きと、やっておくべき一手間をまとめます。
再生成は工程を最初からやり直します。取材メモは生成のたびに全件を読み直して連結されるので、追加したメモも既存のメモと一緒に全文がAIに届きます。
次の3つは、再生成しても前回のものが引き継がれ、新しいメモを自動では吸収しません。放っておくと「新メモを足したのに、そこだけ古いまま」という食い違いが起きます。
前回の生成(または校閲)で保存された年表があると、再生成では抽出し直さず前回の版を使います(年表は初回生成で必ず自動保存されます)。しかも執筆では、年表は「確定した事実として厳密に従う」扱い。放っておくと、新メモの出来事が年表に載らないまま本文が書かれます。
対処:案件ページの「年表・人物相関」パネルで「再抽出」してから再生成してください。再抽出は最新の全メモ+アンケートを読み直して年表を作り直します。そのあと手で校閲してもかまいません。
事前確認で確定した章立てがあると、再生成でもそれが自動生成より優先されるため、新メモを吸収しません。
対処:再取材後に、章構成を作り直して確定し直してください。事前確認を使っていない案件は、章構成は新メモ込みで自動生成されるので、何もしなくて大丈夫です。
保存済みのボイスシートはそのまま使われ、選択済みテーマも残り続けます。新メモに新しい口調やテーマ性があるなら、それぞれ再抽出/選び直しをしてください。
いまは、この「準備データだけ古いまま」という食い違いを、案件ページの生成ボタンの近くが自動で教えてくれます。取材メモ・アンケートの最終更新より前に作られた準備データが残っている案件で、お知らせが表示されます(表示例は『利用マニュアル』第8章の図を)。ポイントは3つです。
必要なら校閲もします。ここがいちばんの要点です。
使っていない案件は不要です。